Kerasではモデルの学習方法として「model.fit()」と「GradientTape」の2つがよく使われます。
どちらもモデルを学習させるものですが、仕組みや使いどころが大きく異なります。
この記事では、model.fit()の仕組み・GradientTapeとの違い・精度への影響・使い分けのコツを初心者にもわかりやすく解説します。
はじめに
前回の記事 「Grad-CAMでAIの判断根拠を可視化してみた!【CNN × 可視化 × Keras】」 では、モデルの学習中に tf.GradientTape を用いて、どのようにAIが判断を行っているのかを可視化する方法を紹介しました。
実は TensorFlow/Keras では、モデルを訓練する際に使える方法が主に2つあります。ひとつは高水準APIである model.fit()、もうひとつが柔軟な制御が可能な tf.GradientTape です。
本記事では、model.fit() と tf.GradientTape の違いと特徴を詳しく解説します。
両者の基本的な使い方や、どんな場面に向いているのかをサンプルコードとともに紹介しますので、初心者の方でも安心して読み進められます。ぜひ最後までご覧ください。
model.fit()とは
model.fit()は、Kerasで最も一般的に使われる学習メソッドです。
モデル・入力データ・ラベル・エポック数などを指定するだけで、自動的に順伝播・損失計算・逆伝播(勾配計算)・重み更新までを行ってくれます。
- 自動で学習ループを実行(勾配計算不要)
- 学習率や最適化手法(例:Adam, SGDなど)を簡単に指定可能
- コールバック(Callback)で早期終了や学習率スケジューリングも設定可能
サンプルコード
model.compile(optimizer='adam', loss='sparse_categorical_crossentropy', metrics=['accuracy'])
model.fit(x_train, y_train, epochs=5, validation_split=0.1)
このように、モデルの訓練をわずか数行で実行できます。
特に画像分類や回帰など、標準的なタスクであれば model.fit() で十分に対応できます。
model.fit()をさらに便利に使う方法
学習ログを保存したい場合
学習中の loss や accuracy を後から確認したい場合は、
【Keras】CSVLoggerの使い方|学習ログを簡単に保存する方法が便利です。
ベストモデルを自動で保存したい場合
学習途中で最も精度の高いモデルだけを残したい場合は、
【Keras入門】ModelCheckpointとは?ベストモデルを自動保存する方法を併用すると安全です。
GradientTapeとは
一方、tf.GradientTape()はTensorFlowの低レベルAPIで、勾配計算を自分で制御したいときに使います。
モデルの内部構造を細かく操作したり、カスタム損失関数・メタ学習・特殊な学習アルゴリズムを実装するのに適しています。
- 学習手順をすべて手動で定義できる
- fitでは難しい特殊な更新処理が可能
- 自由度が高いが、コード量も増える
サンプルコード(手動訓練ループ)
loss_fn = keras.losses.SparseCategoricalCrossentropy()
optimizer = keras.optimizers.Adam()
for epoch in range(3):
for x_batch, y_batch in dataset:
with tf.GradientTape() as tape:
logits = model(x_batch, training=True)
loss = loss_fn(y_batch, logits)
grads = tape.gradient(loss, model.trainable_variables)
optimizer.apply_gradients(zip(grads, model.trainable_variables))
各ステップを自分で記述することで、細かい条件分岐や学習ロジックを柔軟に設計することが可能になります。
両者の違いと使い分け
| 項目 | model.fit() | GradientTape |
|---|---|---|
| 実装の容易さ | 簡単(1行で完結) | 詳細制御が必要 |
| 自由度 | 低い | 高い |
| カスタム損失関数 | 制限あり | 柔軟に対応 |
| 速度 | 最適化済みで速い | 処理が増えやすい |
| 学習率・最適化 | compileで簡単設定 | 手動で管理可能 |
一般的な分類・回帰タスクではmodel.fit()で十分です。
一方、カスタム損失や特殊な正則化など、標準APIで表現できない場合はGradientTapeを選びましょう。
学習率・バッチサイズ・精度の違い
学習率(learning rate)やバッチサイズ(batch size)は、fitでもGradientTapeでも精度に大きく影響します。
例えば、Adam最適化を使う場合は、学習率が大きすぎると損失が発散し、
小さすぎると収束が遅くなることがあります。
- 学習率の自動調整には
ReduceLROnPlateauなどのコールバックが便利 - バッチサイズが大きすぎると汎化性能が低下することも
- 小さめ(例:16〜64)から試すのがおすすめ
これらのパラメータはfit()でもGradientTapeでも同様に重要で、
うまく調整することで精度が数%変わることもあります。
まとめ:どちらを使うべき?
model.fit():シンプル・高速・標準的な用途向けGradientTape():柔軟・拡張性重視・研究用途に最適
まずはfit()で構築し、特殊な要件が出たときにGradientTapeへ切り替えるのがおすすめです。
学習率やバッチサイズ、最適化手法の設定次第で精度も大きく変化するため、パラメータ調整は丁寧に行いましょう。

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